文部科学省/科学研究費助成事業   
 
   ◆文部科学省/科学研究費助成事業(期間:平成26年度~平成28年度+延長1年間)  


事業名称 『認知症高齢者におけるネイル・カラーリング・セラピーに関する研究』

キーワード:【ネイル】・【マニキュア】・【認知症】・【QOL】・【BPSD】 


研究代表者: 佐藤三矢(吉備国際大学 保健医療福祉学部 理学療法学科)
研究分担者: 岡村 仁(広島大学)、横井輝夫(大阪行岡医療大学)
研究協力者: 坂本将徳(介護老人保健施設古都の森)、福嶋久美子(NPO法人 Authentic QOL)、佐藤 恵(NPO法人 Authentic QOL)
協力事業所: 医療法人未来、医療法人順正会


1.取組の背景


1-1.認知症高齢者におけるリハビリテーションの重要性


日本は高齢者人口の急増に伴い、認知症高齢者における人口も著しい増加傾向を示している。

平成18年度の介護保険制度改正では、老人保健施設における軽度認知症者を対象とした認知症短期集中リハビリテーション加算が導入された。

平成21年度の介護報酬改定時にいたっては、対象が「軽度~中等度・重度の認知症者」までに拡大されており、認知症におけるリハビリテーションへの重要性が社会的に高まっていることが容易に推察できる。



1-2.求められるBPSDへの対応


認知症高齢者を対象としている現場においては、“BPSDbehavioral and psychological signs and dementia)”への対応に関する有効な介入方法の確立が喫緊の課題とされてきている。

BPSDとは「認知症の行動および心理症候」と言われ、「認知症患者に高頻度でみられる認知、思考内容、感情、行動障害」と定義されている。

先行研究でも、BPSDの程度がADL(日常生活動作)や認知機能に影響し、さらに介護負担にもっとも影響を及ぼしている事が報告されている。

BPSDに対する問題が浮き彫りになっているにも関わらず、BPSDの治療・対応についての研究は行われているものの、現段階では確立されていないのが現状である。



1-3.私達がネイルカラーリング介入に着目したきっかけ


我々は従来から介護老人保健施設をフィールドとして活動を行ってきている背景がある。

そのような施設において「BPSD
が顕著に見受けられている女性」に対する外部ボランティアの方による「手指へのマニキュアによるネイルカラーリングを実施している姿」を見て、心から驚かされる事象に多数遭遇してきている。

それは、普段から徘徊や大きな声を出すなどのBPSDが顕著に現れている方が、ネイルカラーリングの介入をされている際には、施術が終わるまでの約10分間、おしとやかに落ち着いて座られており、終わった後には笑顔で自分の手を満足げに眺めているのである。

この場面を見て我々は「ネイルカラーリングの介入にはBPSDを軽減させる効果が期待できるのではないか?」と考えた。

しかし、マニキュア介入に関する先行研究は散見されるものの、マニキュア介入によってBPSDがどのように変化するのかについて着目した研究は非常に少ないのが現状であることがわかった。

マニキュアは手軽におしゃれをした気分になることが期待でき、QOLの向上に対しても効果が期待できる。

そしてリハビリ専門職員が行うような知識や技術は必要ではなく、施設の介護スタッフやご家族の方でも手軽に行えるという利点がある。

介入時間も比較的短く、施術に失敗してもすぐに修正が可能であり、施術後は数日の間は介入の必要がないという利点も考えられる。



1-4.本研究の目的


以上のことから今回、対象者を介護老人保健施設入所中の女性認知症高齢者として「単色のネイルカラーリング介入を行った際には、対象者におけるBPSDを含む精神機能面がどのように変化するのか?」を探究することを目的として、本取組の実施に至った。


2.取組の概要



2-1.対象者


対象者は、適格条件と除外条件に照合して選定し、介護老人保健施設に入所中の女性認知症高齢者とした。



2-2.介入内容


介入群に対して、2週間に1回の頻度で単色のネイルカラーリングを実施した。施術の際には前回のカラーリングをリムーバーで除去した後、対象者本人に新たに色を選んでいただいて施術を行った。


3.現在までに得られている結果



3-1.主要評価項目について



主要な評価項目は、認知機能面の評価(MMSE:Mini-Mental Scale Examination)、BPSDの評価(NPI:Neuropsychiatric Inventory)、QOLの評価(QOL-D)とした。対象者に対する評価の実施は、「介入前・介入開始1ヶ月・介入開始2か月・介入開始3か月」の4時点とし、1ヶ月に1回の頻度で評価を実施してきている。


3-2.得られた数値の解析について


各評価項目の得点について、反復測定による一元配置分散分析を用いて比較検討を行ってきている。

得られた数値のすべての解析において、解析ソフトSPSS(バージョン21)を使用し、検定におけるp値は両側(有意水準:p0.05)とした。



3-3.これまでの結果


認知症高齢者のQOLを客観的に評価する尺度(QOL-D)においては、下位項目である「周囲との生き生きとした交流」と「対応困難行動のコントロール」について、有意な向上傾向を認めている(p<0.01)。

また、BPSDの評価尺度(NPI)では「合計得点」と「負担度得点」において平均点の有意な上昇傾向がみられている(p<0.01)。



4.これまでの取組に関する考察および結論的事項



これまでの取組を鑑みれば「介護老人保健施設に入所されている認知症の女性高齢者」を対象として「3ヶ月間」のマニキュア介入を行ったところ、QOLBPSD症状において部分的ではあるものの有意な効果が示唆されている。

堤谷ら(2008年)の報告によれば、マニキュア介入によってQOLと免疫機能が向上し、ストレスや不安度が低下することが示唆されている。

また、平松(2001年)や押川ら(2009年)、そして福嶋ら(2014年)は、マニキュアのカラーリング介入は部分的ではあるものの、精神的な側面でのリラクセーションに有用であり、リラクセーションによる精神面すなわち情動の安定は、行動障害の軽減に役立つことが期待されることが報告されている。

本取組の介入内容では、施設入所という閉鎖された共同生活の場で生じたストレスや不安をネイルカラーリング介入によって、精神面へのリラクゼーション効果に繋がり、QOLの向上傾向やBPSD症状が有意に減少する結果に繋がったと考えられる。



   
 

    
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